残波事件、裁決と判決
※2016年11月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「残波事件、裁決と判決」ですが、
平成24年12月18日の裁決、平成28年4月22日東京地裁判決を
取り上げます。
新聞報道等でも有名になった沖縄の酒造メーカーの過大役員報酬、
過大役員退職給与が問題になった「残波事件」ですが、
「平成24年12月18日の裁決→平成28年4月22日東京地裁判決」
という流れになっています。
この中から過大役員報酬について取り上げます。
この中で東京地裁に判決要旨によれば、下記とされています。
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原告の役員らの職務の内容は、酒類の製造及び販売等を目的とする
一般的な法人の役員において想定される職務内容を超えているとは
認められない。
原告の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況については、
本件各事業年度において、その前に比して売上総利益、営業利益、
経常利益はいずれも減少し、使用人に対する給与の状況に変化はないのに、
役員給与総額のみが上昇している。
そして、処分行政庁において抽出した類似法人の役員給与等の状況等にも
照らすと、類似法人の役員給与の最高額を超える部分は、不相当に高額
であるというべきである。
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東京地裁判決においては開示されている情報が黒塗りされているので、
使用人給与の状況が分からないのですが、裁決においては、下記情報が
開示されています。
平成18年2月期を基準(100)とした場合の
平成19年2月期から平成22年2月期までの推移。
〇 売上金額
・ 平成19年2月期:93.3
・ 平成20年2月期:93.2
・ 平成21年2月期:86.4
・ 平成22年2月期:80.9
〇 売上総利益
・ 平成19年2月期:90.3
・ 平成20年2月期:87.1
・ 平成21年2月期:79.1
・ 平成22年2月期:71.1
〇 経常利益
・ 平成19年2月期:64.8
・ 平成20年2月期:6.4
・ 平成21年2月期:20.5
・ 平成22年2月期:27.5
〇 本件各同族役員に対する役員給与
・ 平成19年2月期:109.3
・ 平成20年2月期:212.2
・ 平成21年2月期:210.5
・ 平成22年2月期:130.2
〇 本件役員に対する給与
・ 平成19年2月期:125.0
・ 平成20年2月期:255.2
・ 平成21年2月期:260.4
・ 平成22年2月期:104.2(平成21年6月に代表取締役を辞任)
〇 同族役員Aに対する給与
・ 平成19年2月期:100.0
・ 平成20年2月期:206.5
・ 平成21年2月期:201.9
・ 平成22年2月期:170.4
〇 同族役員Bに対する給与
・ 平成19年2月期:100.0
・ 平成20年2月期:160.0
・ 平成21年2月期:153.3
・ 平成22年2月期:120.0
〇 同族役員Cに対する給与
・ 平成19年2月期:100.0
・ 平成20年2月期:197.9
・ 平成21年2月期:191.7
・ 平成22年2月期:150.0
これに対して、使用人に対する給与の状況は下記となっていました。
〇 使用人給与額
・ 平成19年2月期:104.9
・ 平成20年2月期:107.8
・ 平成21年2月期:121.3
・ 平成22年2月期:106.1
〇 使用人1人当たりの給与支給額
・ 平成19年2月期:99.1
・ 平成20年2月期:96.4
・ 平成21年2月期:103.1
・ 平成22年2月期:85.9
法人税法施行令第70条第1項第1号イでは
〇 当該役員の職務の内容
〇 その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況
〇 その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの
役員に対する給与の支給の状況
等を総合勘案し、過大役員給与を判断することになっています。
どの程度の伸び率であれば、否認されないという100%の明確な線引きが
ある訳ではありませんが、業績や使用人給与の伸び率等を慎重に判断した上で
役員給与は決める必要があるのです。
このような数値での比較は過去の判決や裁決でも採用されている考え方です。
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