民法>相続税法 節税ありきに警鐘
※2022年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
税理士法人レディングの木下でございます。
今回のテーマは
「民法>相続税法 節税ありきに警鐘」です。
相続専門税理士を標榜する私のもとには
プロの皆様(税理士等)や一般の皆様から
連日数多くのご相談をいただきます。
そのほとんどの相談が「相続『税』対策」です。
相続対策ではなく、相続「税」対策です。
もちろん、私は税理士ですので、
税務のことをご質問されるのが当然と言えば当然です。
世に出回る相続対策のほとんどが
「相続『税』対策」にフォーカスしたものになります。
興味の対象は、どこまでいっても「税」です。
いかに税金を安くできるか。
この視点が前面に押し出されます。
当然、否定するつもりは毛頭ありませんが、
自分が相続人の立場だと仮定した場合に
本当にそのスタンスを堅持することができるでしょうか。
以下の例で考えてみてください。
家族構成:父・長男・長女(母は既に他界)
各々居住の状況は以下のとおりです。
父:持ち家に一人暮らし
長男:賃貸マンション
長女:夫の持ち家
父の相続財産は7,000万円であり、
金融資産(現金)は3,000万円保有している。
高齢となった父の節税対策を相談された税理士は、
令和4年度でも延長となった「住宅取得等資金贈与」
につき長男だけが要件を満たすため、
「長男のみ」1,000万円を贈与することを提案した。
父はその提案とおり令和4年度に贈与実行し、
その後、2年半年後に父の相続が発生した。
違和感は感じますでしょうか?
確かに、1,000万円分の資金を父の財産から消せた
という意味では、父の相続対策は成功していますし
住宅取得等資金贈与は3年内贈与加算の対象
とはなりません(措法70の2(3))。
しかしながら、
皆様が長女の立場に立った場合はいかがでしょうか。
なぜ、兄である長男だけが1,000万円贈与を受け
要件を満たさない自分(長女)は
1,000万円の贈与はされなかったのか?
自分(長女)は父から可愛がられていないのか?
自分(長女)だって、
例え税金を払っても贈与してほしい。
そのように感じるのが普通ではないでしょうか。
実際の相続の現場では、
節税だけでは解決できない問題が多くあります。
このケースで言えば、
長女は残った財産の遺産分割につき、
長男の贈与が特別受益であることを立証し
特別受益の持ち戻し(民法903)、
これを主張することになると推察します。
つまり、
相続対策を考える場合には、
相続税対策の根本となる「相続税法」
遺産分割の根本となる「民法」
この2つの側面からの検討が必須となります。
なぜならば、人間は感情をもった動物だから。
皆様も今一度、「相続対策で本当に大切なこと」を
根本から考えてみてください。
民法があって相続税法があります。
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。
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