法人調査で社長の個人口座を見せるべきか?
※2021年4月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
今回のメルマガは、法人の税務調査でよくある調査官の
「社長個人の口座を見せてください」という要請に対して、
法律的な解釈と、実務上の対応について解説します。
まず、法人調査において社長個人の口座を見せなければならないか、
質問検査権の範囲内かという法律的な解釈からです。
国税通則法第74条の2では、法人税に対する質問検査権の
相手方は「法人」と定められており、調査対象物は
「(法人の)帳簿書類その他の物件」と規定されています。
ですから、原則的な解釈としては、社長の個人口座は
法人調査における質問検査権の範囲【外】となります。
ただし、社長の個人口座が法人の事業に関連している場合は
別になります。よくあるケースとしては、法人成りした等
個人口座を法人用に転用している場合です。
また、社長の個人口座に法人の一部収入もしくは
キックバックなど、法人の事業に関連する入金などがある
場合は、事業関連性があることになりますから、
個人口座であっても質問検査権の範囲内と解釈できます。
一方で、もう1つの考え方もあります。
それは、社長個人が法人の反面調査先とするものです。
よくあるケースとしては、法人側で多額の社長借入金が
計上されている場合に、「社長の原資を確認したいので
個人口座を見せてください」と要請される場合です。
これは、法人側からすると銀行(借入)と同じ捉え方で、
社長が資金を提供している以上、社長個人に対して
反面調査を実施することができる、というものです
(あくまでも社長借入金の原資・捻出の範囲内ですが)。
以上が質問検査権の法律論となりますが、
では現実的な対応として、社長の個人口座を開示要請
された場合、断固拒否した方がいいのでしょうか?
もちろん、調査の状況と顧問先の意向によるところが
大きいわけですが、やましいことがないのであれば
個人口座の提示に応じた方が無難なケースが多いでしょう。
まず、調査官に対して「法人との事業関連性がないから
個人口座は見せない」と主張したところで、結局のところ
調査官としては個人口座を照会することができます。
昔と違って昨今は特に、税務署からの口座照会は
銀行に行かなくとも簡単にできるようになっています。
最終的に個人口座を確認される(可能性が高い)のであれば
最初から素直に応じておいた方が、税務調査が早く終わる
というメリットもあります(もちろん調査官が面倒で
口座照会をかけないという可能性もありますが)。
もう1つあり得るのは、重加算税の論点です。
個人口座の要請を断っておいて、調査官が実施した
銀行調査の結果、キックバックなどの入金が発覚した場合、
ほぼ100%の確率で重加算税を課されるでしょう。
これは、「隠ぺい」行為と捉えられるからです。
一方でキックバックなどがあっても、個人口座を自ら
開示した場合、(事実認定にはよりますが)
隠ぺい行為とされない可能性もあります。
この場合、自ら個人口座を提示したことから、
あくまでも「隠ぺい」行為はなく、雑収入の計上漏れ
(見解の相違)と主張する余地が出てくるわけです。
社長個人・顧問税理士としては、やましいことがなくても
「個人口座を見せたくない」という気持ちになるのは
よくわかりますが、税務調査が長引く、もしくは
社長の認識不足によって入金などがあった場合など
個人口座を見せないことによる不利益も考えられます。
あくまでも質問検査権の範囲など法律論を理解したうえでの
対応とはなりますが、実務上の対応は柔軟に考えるべきです。
ぜひ、参考にしてください。
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