無申告の税務調査対応と重加算税
※2020年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
コロナ禍が長引くなか、通常の税務調査件数が
減っていると思いますが、このような状況下で
税務署が注力しそうなのが「無申告事案」です。
平常時であれば、申告案件のうち一定数(率)
の税務調査を実施しながら、加えて
事業が稼働していると把握できる無申告者
に対して税務調査を実施することになります。
こういう時期だからこそ、申告案件を先延ばし
無申告者の調査に注力すれば、確実に増差が
見込めると税務署が考えても当然でしょう。
一方で、税理士・会計事務所が無申告の
調査事案に立会う場合、
・遡及年分が長い
・赤字でも消費税や源泉は発生する
・調査官の言いなりになっている
・重加算税と指摘されている
などから、税額が多額になっており、
駆け込み寺になっている場合が多いはずです。
今回のメルマガではまず、無申告と
重加算税の関係について解説しますが、
重加算税以外にも論点は複数ありますので、
3回に分けて無申告の調査対応を取り上げます。
実は、無申告者に対する税務調査において
重加算税を賦課することは意外に難しいです
(多くの無申告調査事案では、調査官に
反論しないので重加算税が賦課されます)。
重加算税の要件は「仮装・隠ぺい」ですが、
無申告だからといって、仮装・隠ぺい行為を
行ったことにはなりにくいからです。
税務署から連絡があり、調査開始までに
帳票類などを破棄したなど悪質なケースを
除いて、一般的にはそのまま調査を受け、
保存している資料等を提示します。
そうなると、(調査官の言い分はともかく)
何ら「仮装・隠ぺい」をしていないので、
実は重加算税の要件が成立していません。
ですから、無申告調査事案で重加算税と
指摘されている場合、調査官に対して
「具体的にどの行為が仮装・隠ぺいですか?」
とその根拠を問いただす必要があります。
この指摘・反論に対して調査官が
「無申告ということは故意に申告しなかった
わけなので重加算税です」など主張してきた場合、
具体的な裁決・判決を提示することになります。
「無申告=重加算税ではない」ことを判断した
裁決・判決は非常に多くありますが、
最近の公開裁決事例でも下記があります。
「当初から法定申告期限までに申告しないことを
意図し、その意図を外部からもうかがい得る
特段の行動をしたとは認められないとして
重加算税の賦課決定処分を取り消した事例」
(令和元年11月20日裁決)
本裁決事例(争点2)では、
「重加算税を課するためには、納税者による
無申告行為そのものが隠蔽、仮装に当たると
いうだけでは足りず、無申告行為そのものとは
別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、
これに合わせた無申告行為を要する」
と判断されており、単純に「無申告=重加算税
にならない」ことが明示されていますし、
他多数の裁決・判決でも同様の内容が
判断されていることは知っておくべきです。
この論点を掘り下げて学びたい方は、
下記の税大論叢をぜひお読みください。
来週水曜の本メルマガでは、無申告の調査事案
で否認指摘されやすい、請求書・領収書などが
無い場合の「仕入税額控除」について解説します。
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