相続放棄で注意すべき税務論点3
※2022年12月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
税理士法人レディングの木下でございます。
「相続放棄で注意すべき税務論点3」です。
前回は、相続放棄論点でも
相続税法における「相続人の定義」を取り上げました。
その内容は・・・
■原則的な取扱い
「相続を放棄した者」及び「相続権を失った者」を含まない。
■例外的な取扱い
・第十五条(遺産に係る基礎控除)
・第十六条(相続税の総額)
・第十九条の二第一項(配偶者に対する相続税額の軽減)
・第十九条の三第一項(未成年者控除)
・第十九条の四第一項(障害者控除)
・第六十三条(相続人の数に算入される養子の数の否認)
・第十五条第二項に規定する相続人の数
という場合を除く。
上記を前提のうえ
「生命保険金(相法12(1)五)」
「死亡退職金(相法12(1)六)」
を解説しました。
今回は・・・
相続放棄した場合における
配偶者の税額軽減特例を取り上げます。
仮に、配偶者が相続放棄をしたうえで、
前回取り上げた生命保険金(死亡保険金)を
取得した場合を考えます。
相続人である配偶者が相続放棄すると・・・
はじめから相続人ではなかったものとなります
(民法939)。
そのうえで、相続税法19条の2を検証します。
—
(配偶者に対する相続税額の軽減)
第十九条の二 被相続人の配偶者が当該被相続人からの相続
又は遺贈により財産を取得した場合には、当該配偶者については、
第一号に掲げる金額から第二号に掲げる金額を控除した残額があるときは、
当該残額をもつてその納付すべき相続税額とし、第一号に掲げる金額が
第二号に掲げる金額以下であるときは、その納付すべき相続税額は、
ないものとする。
一 当該配偶者につき第十五条から第十七条まで
及び前条の規定により算出した金額
二 当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者
に係る相続税の総額に、次に掲げる金額のうち
いずれか少ない金額が当該相続又は遺贈により
財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額
のうちに占める割合を乗じて算出した金額
イ 当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者
に係る相続税の課税価格の合計額に民法第九百条(法定相続分)
の規定による当該配偶者の相続分(相続の放棄があつた場合には、
その放棄がなかつたものとした場合における相続分)を乗じて
算出した金額(当該被相続人の相続人(相続の放棄があつた場合には、
その放棄がなかつたものとした場合における相続人)が当該配偶者のみ
である場合には、当該合計額)に相当する金額
(当該金額が一億六千万円に満たない場合には、一億六千万円)
ロ 当該相続又は遺贈により財産を取得した配偶者
に係る相続税の課税価格に相当する金額
2~6省略
—
最初の書き出しに着目です。
「被相続人の配偶者が当該被相続人からの
相続又は遺贈により財産を取得した場合には」
「遺贈」により財産を取得 とあります。
これは、相続放棄後でも保険金などの財産を
取得することを想定しています。
そのため、配偶者が相続放棄した後でも
配偶者の税額軽減特例(相法19の2)を
問題なく適用することは可能となります。
このことは、以下の相続税法基本通達においても
明示されています。
(相続を放棄した配偶者に対する相続税額の軽減)
19の2-3 配偶者に対する相続税額の軽減の規定は、
配偶者が相続を放棄した場合であっても当該配偶者が
遺贈により取得した財産があるときは、
適用があるのであるから留意する。
(昭41直審(資)5、昭42直審(資)5、令元課資2-10改正)
つまり、相続放棄した場合、
相続人ではなくなりますが、配偶者であることには
変わりがないことを意味しているといえます。
■別視点での検証
配偶者の税額軽減特例は
(1)1.6億円
(2)法定相続分に応じた財産
のいずれか大きい方まで
相続税額の負担がなくなる特例です。
被相続人:父
相続人:母、長男、次男
生命保険金:2億円(受取人は母)
その他の相続財産:500万円 - 2,000万円
上記につき、長男・次男が相続放棄し
被相続人には、両親・兄弟姉妹はいないものとします。
相続放棄すると、母のみが相続人となるため、
民法上の法定相続分は1/1(100%)となり
(2)を選択し、相続税負担がゼロとなります。
これを防止する観点から
相続税法では、当然のように規制が入っています。
イ ・・・(相続の放棄があつた場合には、
その放棄がなかつたものとした場合における相続分)
()書きの部分で、相続放棄がなかったものとされるため
配偶者の法定相続分は1/2となります。
注意が必要になりますので、条文を確認してみてください。
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