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2019.10.25

相続開始直前の預金引出しを申告していない場合は重加算税か?

※2018年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

株式会社KACHIELの久保憂希也です。

相続税の調査において、重加算税が問題となる
申告漏れ事案として、相続開始直前に
相続人が被相続人の預金から引出しを行い、それを
相続財産として申告していないケースがあります。

これは、課税財産金額を減らそうという
意図があるのであれば、当然に重加算税
という話になるのですが、この預金引出し行為は
一般的に考えて、相続人に下記の思いがあります。
特に、相続人自身に預金が少ないような場合は
これに該当するケースが多いと思います。

〇入院費・葬儀費用など多額の出金に備える

〇被相続人が死亡した場合に、口座が凍結される
怖れがあるため、それに備える

さて、このような「相続開始直前の預金引出しを
相続財産に含めて申告していない場合は
重加算税になるのか?」が論点になります。

よくありがちな話であり、また相続人と
税理士で意思の疎通がうまくできていない場合、
相続開始直前の預金引出しについては、
税理士が把握できていないケースも多くあります。

この点、かなり最近の裁決(公開裁決事例)では
「重加算税ではない」として取消しになっています。

「当初から相続税を過少に申告する意図を有していたと
認めることはできないとして、重加算税の賦課決定処分
を取り消した事例」(平成30年3月29日裁決)
http://www.kfs.go.jp/service/JP/110/07/index.html

本裁決事例における事実関係は下記です。

〇被相続人がある日倒れて意識不明

〇被相続人はその11日後に死亡

〇相続人(被相続人の子)は、被相続人が倒れた日の
翌日及び翌々日に被相続人名義の預金口座から
約1,000万円を引き出して自身の口座に預け入れた

〇相続人はこの約1,000万円について、
遺産分割協議書に記載していない

〇相続人は、当初申告時の税理士に対して
被相続人名義の預金口座の残高証明書を
提示するのみで預金通帳を提示しなかった

〇相続人は税務調査を受けることになり、
引出した預金(の一部)を含めて修正申告した

〇税務署は、不足する財産額を合わせて更正する
とともに、重加算税を賦課した

この事案における重加算税の論点は、
「相続人が税理士に対して、被相続人名義の
預金通帳を提示しなかったことなどの行為が
隠ぺいまたは仮装に該当するのか」です。

不服審判所は下記を論拠として
重加算税を取消しとしました。

〇相続人がこの1,000万円を相続財産である
と十分認識していたと認めるのは困難である上、
本件遺産分割協議書及び本件申告書の作成に当たり、
当初申告代理人に対し、本件被相続人名義の
預金口座の残高証明書のみを提示することにより、
過少な相続税額が記載された本件申告書を作成させた
ものとも認められず、原処分庁の上記主張を
根拠付ける証拠も見当たらない。

〇相続人が当初から過少に申告する意図を
有していたとか、その意図を外部からも
うかがい得る特段の行動をしたとは認められない

顧問先と税理士の関係性、また納税者の
税務に対する知識、さらには申告までの
期間に余裕があるかないかによりますが、
通帳の内容を確認せず、預金残高証明書のみで
相続申告をするケースもあり得ます。

このようなケースでは、調査官は
たいていの場合「重加算税です」と
指摘するとは思いますが、実際のところは
(事実認定にもよりますが)特段何か
隠ぺい行為でもしていない限り、
重加算税にならないのは裁決の通りです。

実務上はよくあるケースですから、
重加算税に反論するためにぜひ覚えておいて
いただきたい裁決になります。

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