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2023.10.06

破産の貸倒損失に関する裁決事例を正しく理解する

※2022年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

株式会社KACHIELの久保憂希也です。

先週水曜の本メルマガから引続き、
取引先の「破産」にかかる貸倒損失を取り上げますが、
今回は論拠としている裁決事例を掘り下げて整理します。

なお、取り上げる裁決事例は前回と同じ下記になります
(文章量が少ないのでぜひ全文お読みください)。

「請求人が有する売掛債権は、その債権が消滅した
事業年度の貸倒損失となるとした事例」
(平成20年6月26日裁決)
https://www.kfs.go.jp/service/JP/75/21/index.html

まず重要な論点として、国税側は破産に関する
貸倒損失の計上根拠を通達9-6-2と主張
しましたが、不服審判所の判断は違うという点です。

不服審判所は、あくまでも破産における
通達9-6-2の適用は「破産終結決定前であっても
配当がないことが明らかな場合」としています。
情報を付加して時系列で整理すると下記になります。

破産手続開始の申立て=50%の引当計上は可能

破産手続開始の決定(債権者が知れるタイミング)

換価できる財産が明らかにない場合
=通達9-6-2により貸倒損失の計上は可能

破産手続終結決定(または廃止決定の確定)
=法人格が消滅する(外形的には閉鎖登記)
=法人の金銭債権・債務も付随的に消滅する
=貸倒損失の計上

ですから、少なくとも上記の裁決事例を
汎用的に理解すると、取引先が破産した場合の
貸倒損失の計上根拠は9-6-2ではありません。

あくまでも「破産管財人から配当金額が零円である
ことの証明がある場合や、その証明が受けられない
場合であっても債務者の資産の処分が終了し、
今後の回収が見込まれないまま破産終結までに
相当な期間がかかるときは、破産終結決定前で
あっても配当がないことが明らかな場合は、」
【破産の手続の終結前であっても】9-6-2を
適用できる余地がある、という理解になります。

では・・・です。破産決定した時に
貸倒損失を計上できるとする根拠は何でしょうか。

本裁決事例では、法人税法第22条第3項第3号の
「損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」
としています。

考えてみれば当たり前なのですが、なにも
貸倒損失の計上根拠が通達でなければならない
理由はどこにもなく、法人税法第22条第3項に
さえ該当すればいい、という考え方です。

一方で、「法人税事例選集(令和2年11月改訂)」
(清文社)の「破産債権について貸倒処理ができる事実」
の項目においては、下記と解説されています。

「上記の裁決の前段にある貸倒処理は、
損金経理を要件とされていませんので、
法人税基本通達9-6-1に該当するという
判断と考えられます。」

破産債権の場合、法人税法第22条第3項か
通達9-6-1の適用か、どちらにしても、
取引先が破産したことを後になって知れば
損金経理要件があるわけではありませんので、
更正の請求をすることができます。

さて、本裁決事例においてもう1つ重要な
論点があります。それは、破産手続終結決定
=貸倒損失の計上という論理は「法人」に
適用されるのであって、相手方・取引先が
「個人(自然人)」であった場合には
触れられていないということです。

来週水曜の本メルマガでは、取引先が
個人であって破産手続終結決定した場合の、
貸倒損失計上時期について解説します。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

著者情報

久保憂希也

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