税務調査の受忍義務違反は結局こうなる
※2017年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社InspireConsultingの久保憂希也です。
私への質問・相談で多いのが、
「○○のように対応すれば税務調査を断っている
と捉えられ、受忍義務違反に該当しますか?」
というものがあります。
典型例としては、無予告調査に対する
理由の開示を求めて、その回答がない限り、
税務調査には応じない、などの対応です。
まず、税務調査における納税者の
受忍義務を規定した条文をみておきましょう。
(一部省略)
国税通則法第127条(罰則)
二 第74条の2〜(当該職員の質問検査権)の
規定による当該職員の質問に対して答弁せず、
若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による
検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を
拒み、妨げ、若しくは忌避した者
三 第74条の2から第74条の6までの
規定による物件の提示又は提出の要求に対し、
正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載
若しくは記録をした帳簿書類その他の物件
を提示し、若しくは提出した者
として、税務調査に対する受忍義務を
法的に定めているわけです。
一方で、無予告調査における理由開示ですが、
今年8月9日に、「無予告調査の理由は
開示されてなくても・・・」と題して
本メルマガでも解説したとおり、理由の開示義務
は定められていませんから、いくら理由開示を
迫っても、開示されないこともあります。
では、上記を前提として、無予告調査の
理由を開示されないことを根拠にして、
税務調査を断り続ければどうなるのでしょうか?
実際の事案として、無予告調査の理由開示を
書面で迫り、その回答がないままで調査を
受けないとして課税要件を争った
平成28年10月21日の(非公開)裁決では、
(TAINSコード:F0−5−177)
○消費税の仕入税額控除を否認された
○青色の取消しを受けた
を争い、裁決で納税者が負けています。
結局のところ、受忍義務違反となると、
国税は国税通則法第127条の罰則規定を
持ち出すことなく、帳簿が開示されないことから
消費税の否認と青色取消ができてしまうのです。
(他の似たような事案でも同じような結果が多数)
なお、受忍義務違反の罰則規定は、
今まで実際には適用されたことがない
(不服申立て・裁判までいったことがない)
とされており、国税による代替課税が
実施されるのが通例となっています。
税務調査の手続きを知ることは重要で、
かつそれが適正に履行されているかどうかは
税務調査において重要な論点ではあります。
しかし、その根拠が明確でなく、実質的に
税務調査を「忌避した」ということになれば、
損害を被るのは顧問先、ということになります。
上記の事案でいえば、無予告調査の理由開示を
求めることまではいいのですが、国税に
理由開示義務がないことまで知っていれば、
ここまで大事にはならなかったはずです。
なお、上記の非公開裁決は、裁決文において
金額は非開示となっていますが、ネット上の
ニュースでは30億円超の否認となっています。
本記事でも、税務調査手続きについて
情報を多数取り上げていますが、法的に
きちんと理解すべき点は多くあります。
生半可な知識で、調査手続きを盾に戦えば
良くない結果を招くことに繋がりかねません。
ぜひ、注意してください。
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一切受け付けておりませんのでご留意ください。