税務調査前、開始後の修正申告と加算税(その1)
※2017年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「税務調査前、開始後の修正申告と加算税(その1)」ですが、
平成24年9月25日の東京地裁判決を取り上げます。
さて、間もなく税務調査官の異動があり、
その後、税務調査の季節が始まります。
そこで、数回のシリーズでこのテーマを解説します。
皆さんもご存知の通り、平成28年度の税制改正により、
調査通知※後の場合、税務調査前(税務調査中)における修正申告は、
その提出が調査による更正を予知してされたものでない場合であっても
加算税の対象になることになっています。
※調査通知と事前通知は違うものですが、
以前、久保が解説していたので、ここでは割愛します。
ただし、この改正は平成29年1月1日以後に法定申告期限が
到来する国税から対象になります。
逆に言えば、これよりも前に法定申告期限が到来した国税については、
改正前の取扱いと同じで、調査通知後、事前通知後、税務調査前、
税務調査の途中でも「更正があるべきことを予知」して提出された
修正申告書でなければ、加算税の対象にならないということです。
これに関する裁判として、税務調査の「途中」で修正申告書を
提出した事例が上記東京地裁判決です。
上記裁判は半導体基板の製造及び設計開発等を主たる事業とする株式会社が
法人税の確定申告書の提出期限までに増加償却の届出書を納税地の
所轄税務署長に提出することを失念したまま、増加償却を適用していたため、
税務調査の「途中」で修正申告書を「自ら」提出した事案です。
なお、修正申告書の提出「前」に、税務調査官は固定資産台帳や
減価償却費明細等の資料を収集していました。
この事案に関し、東京地裁は下記と判断しました。
○過少申告加算税の制度は、過少申告により納税義務に違反した者に
加算税を課することによって、当初から適正に申告し納税した納税者との
間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務
違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を
挙げることを目的とするものであるから、当初の申告において過少申告が
されれば、その後修正申告書の提出があった場合でも、原則として、過少
申告加算税は賦課されることになる(国税通則法65条1項)。
○一方、国税通則法65条5項は、過少申告がされた場合であっても、
その後修正申告書の提出があり、その提出が「その申告に係る国税について
の調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知して
されたものでないとき」は、過少申告加算税を賦課しない旨定めているところ、
これは、課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等を軽減することが
できることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告書を提出した者に
対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な
修正申告を歓迎し、これを奨励することを目的とするものと解される。
○国税通則法65条5項が、「調査があったことにより」更正があるべき
ことを予知したか否かによって、過少申告加算税を賦課するか否かを決する
こととしていることからすれば、当該調査が納税者の修正申告の自発性の
否定につながる内容のものであること、すなわち当初申告が不適正である
ことの発見につながる調査があったことが要件となっているものと解すべき
であり、また、「更正があるべきことを予知し」たとは、単に更正がされる
主観的なあるいは一般的抽象的な可能性があるにとどまらず、更正がされる
ことについて客観的に相当程度の確実性がある段階に達した後に、更正に
至るべきことを認識したことをいうとするのが相当である。
○ そうすると、上記のような国税通則法65条1項及び同条5項の趣旨や
文言に照らすと、同項にいう「その申告に係る国税についての調査があった
ことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたもので
ないとき」とは、税務職員が申告に係る国税についての調査に着手し、
その申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる
資料を発見し、これによりその後の調査が進行し先の申告が不適正で申告
漏れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に
相当程度の確実性をもって認められる段階(いわゆる「客観的確実時期」)
に達した後に、納税者がやがて更正に至るべきことを認識した上で修正申告を
決意し修正申告書を提出したものでないことをいうものと解するのが相当
である。
○ 本件においては、本件調査担当者の調査により、本件届出書の不提出が
発見されるであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる
段階に達する前に本件修正申告書が提出されたものと認められるところ、
さらに、以下に述べるとおり、原告は、やがて更正に至るべきことを認識
した上で修正申告を決意し本件修正申告書を提出したものではないと
認められる。
○本件修正申告書の提出に至る経緯に関し、(1)原告は、平成16年8月期
以降、毎事業年度、増加償却の届出書を西脇税務署長に提出していたが、
本件事業年度については本件届出書の提出を失念していたところ、平成21年
7月21日に本件臨場調査に備えて準備した資料を確認したことによって、
本件届出書の提出を失念している可能性があることに偶然気付いたこと、
(2)原告は、本件届出書を提出したかを確認するのと並行して、平成21年
7月26日には、修正申告をした場合の納税資金の手配が可能であることを
確認し、同月27日には、本件届出書の不提出が確実になったことから、
顧問税理士事務所の助言を踏まえ、親会社であるBに対して、延滞税の増加を
止めるために速やかに修正申告をすべきである旨主張するとともに、本件
修正申告書の提出に向けた準備を開始したこと、(3)原告は、平成21年7月
28日、Bから修正申告の指示があった後すぐに、本件修正申告書を提出する
とともに追加納税手続を行ったことがそれぞれ認められる。
○このような経緯からすれば、原告は、本件臨場調査そのものによって
本件届出書の不提出に気付いたものではないし、不提出に気付いた後は、
延滞税の発生を止めるため、可及的速やかに本件修正申告書の提出及び追加
納税を行ったものと認められるから、原告は、本件臨場調査における具体的な
調査とは直接関係することなく、本件修正申告書の提出をしたものという
ことができる。
○認定事実によれば、原告担当者である乙らは、減価償却計算の適否に関連
する質問への回答や資料の提出をしたり、製造装置の現物確認依頼を受けたり
したことにより、本件調査担当者が減価償却計算の適否に係る調査を行って
いることを認識していたと認められる。
○また、認定事実によれば、乙らは、平成21年7月24日には本件届出書を
提出していないことをほぼ確信していたが、本件修正申告書を提出するまで、
そのことを本件調査担当者に告げなかったことが認められるところ、これは、
乙らが、本件届出書の不提出を告げれば、そのことを理由に更正がされ
過少申告加算税を賦課される可能性があると考えていたからであると推認
される。
○しかしながら、原告が本件事業年度において増加償却の特例を適用した
ことについて、「届出書」提出という要件以外の適用要件が欠落していた
ことをうかがわせる証拠は存在せず、原告は、本件届出書を提出して
いなかったことのみをもって増加償却の特例の適用要件を満たさないことに
なり、ひいては本件確定申告書における申告が不適正なものとなったもの
であるから、本件において、原告がやがて更正に至るべきことを認識して
いたというためには、本件届出書の提出という要件を欠いていることが発見
されて更正に至るであろうことを原告が認識して修正申告を決意し修正申告書
を提出したことが必要であるというべきである。
○本件修正申告書提出時においては、本件調査担当者が本件届出書の確認を
することになることが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に
至っていたとは到底いうことができず、単にそのような一般的抽象的可能性
があったにすぎない状況にあったというべきであり、しかも乙らは、本件
修正申告書を提出する前に、本件調査担当者から、増加償却の特例の適用
要件が充足されているか否かや増加償却計算が適正であるか否かについて
質問等をされることは全くなかったことからするならば、乙らにおいて、
「届出書」の提出という要件を欠くことが発見されていずれ更正に至る
であろうことを認識して本件修正申告書を提出したとは認められない。
○ 被告は、原告担当者が、本件修正申告書を提出した後、本件調査担当者に
対し、本件臨場調査が増加償却の適用に直接関係する減価償却費の調査に
及んでいたか否かを質問し、その回答をICレコーダーで録音しようとした
ことからすれば、原告が更正を予知していたことが推認される旨主張する。
○確かに、認定事実によれば、原告担当者である乙は、本件修正申告書を
提出したことを本件調査担当者に説明した際、増加償却の特例に関する調査
が始まっていないことについての言質をとって、これをICレコーダーに
録音しようとしたことが認められる。
○しかし、乙が、会話をICレコーダーで録音しようとしたのは、まさに
本件修正申告書を提出した後に、過少申告加算税の適用除外要件である
国税通則法65条5項該当性が問題になることを慮り、いまだ増加償却の
特例の適用に関する調査が開始されていないことを記録化しようとしたから
であると推認されるのであり、仮に、乙が、既に増加償却の特例の適用に
関する調査が開始されており、本件届出書の不提出が発見されることが相当
程度確実であると認識していたのであれば、そのような録音による記録化を
試みることは考えられないから、乙が録音を試みたことは、むしろ、本件
届出書の不提出が発見されることが相当程度確実であるとは認識して
いなかったことを示すものというべきであって、被告の上記主張は採用する
ことができない。
○したがって、原告は、本件臨場調査により本件届出書の不提出が発覚し、
ひいては更正に至ることが相当程度確実であると認識しつつ修正申告を
決意し本件修正申告書を提出したものではないと認められる。
○原告は、本件調査担当者において本件確定申告書における申告が不適正
であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、
これによりその後の調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの存する
ことが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性を
もって認められる段階に達する前に、自発的に修正申告を決意し本件修正
申告書を提出したものであると認められるから、本件修正申告書の提出は
「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について
更正があるべきことを予知してされたものでない」というべきである。
いかがでしょうか?
金額が大きいミス、重加算税の対象となる可能性が高い間違いがある場合、
それが改正が適用される事業年度前の事業年度に発生したものならば、
税務調査の臨場前に修正申告書を提出しておくべきです。
もちろん、税務調査の途中であっても、
税務調査官から具体的に指摘等される前であれば、提出すべきです。
仮に、それに関する資料を税務調査官が収集した後であってもです。
この事案は非常に重要な事案ですので、割愛した事実認定等の部分も含め、
詳細に読んでおいて頂ければと思います。
ちなみに、TAINSコードは「Z262−12046」です。
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