税務調査前、開始後の修正申告と加算税(その2)
※2017年7月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「税務調査前、開始後の修正申告と加算税(その2)」ですが、
2つの裁決を取り上げます。
調査通知後の場合、税務調査前(税務調査中)における修正申告は、
その提出が調査による「更正があるべきことを予知」してされたもの
でない場合であっても加算税の対象になることを前回のメルマガで
解説しました。
※この改正は平成29年1月1日以後に法定申告期限が
到来する国税から対象になります。
※これよりも前に法定申告期限が到来する国税は従前の取扱いのまま
では、この「更正があるべきことを予知して」とはどういう基準で
考えればいいのでしょうか?
学説には諸説ありますが、それをここで論じるつもりはないので、
過去の裁決や判決を税理士がどう活用していくかという点から解説します。
〇昭和57年3月26日裁決(更正があるべきことを予知してなされた
申告ではないとして過少申告加算税を取り消した事例)
国税通則法第65条第3項に規定する「更正があるべきことを予知して」とは、
課税庁が当該納税申告書に疑惑を抱き、調査の必要を認めて、現実に納税者
に対する質問、帳簿調査等の実地調査又は呼出調査等により当該申告が適正
でないことを把握するに至ったことを前提として、納税者が修正申告書を
提出する時点で更正のあることを察知していたことを指すものと解すべき
であるところ、本件においては、原処分庁の調査担当者が電話で調査日時の
取決めをした日後2日を経過して修正申告書の提出があり、更に2日を経過
した後に調査があった事実などからみて、請求人は、本件修正申告書を提出
する時点で、原処分庁がその調査によって請求人の当初の申告が適正でない
ことを既に把握していたことを察知していたと認めることはできないから、
本件修正申告は、国税通則法第65条第3項に規定する「更正があるべき
ことを予知して」なされた申告ではない。
この事例では修正申告書を提出した2日後に税務調査があった訳ですが、
過少申告加算税は課されなかった訳です。
前回にご紹介した東京地裁(平成24年9月25日判決)では
税務調査が始まり、かつ、一定の該当資料を税務調査官に渡した後の
修正申告ですら、過少申告加算税の対象にならなかった訳ですから、
上記裁決は当然の結果と言えます。
その他の事例では大阪高裁(平成12年11月17日)などもあり、
納税者の主張が認められています。
ただし、1点だけ注意すべき点があります。
それは東京高裁(昭和61年6月23日)で「修正申告書の提出が更正が
あるべきことを予知してされたものでないときに例外的に加算税を賦課
しないこととした国税通則法65条3項の趣旨からすれば調査により更正が
あるべきことを予知して修正申告がされたものでないことの主張・立証責任
は納税者にあるというべきである」と判示されている点です。
つまり、更正があるべきことを予知していないことの立証責任は
納税者にあるとされているのです。
ここが実際の現場でどの程度までの論点になるかは別問題ですが、
「更正があるべきことを予知して」とは内心的な要素でもあり、
客観的事実で証明することは難しい場合も多いのではないでしょうか?
ただし、前回の東京地裁判決から言えることは
「ミスに関連する資料を税務調査官が収集した後」でも
「具体的に指摘される前」であれば、「税務調査の途中」でも
過少申告加算税の賦課決定が取り消されているという結果です。
「なぜ、こんな改正にしたのだろう・・・」と疑問に思いますが、
この改正は平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来する
国税からが対象であり、これよりも前に法定申告期限が到来する
国税は従前の取扱いのままとなります。
事前に「ミス」が分かったので、正しい内容で事前に修正申告するのは
法的にも問題の無い行為です(税務調査官の感情問題は別のところに
あるのでしょうが)。
また、これは聞いた話ですが、事前の修正申告書を提出した後に
取下げを要請されたケースもあるようです。
ただし、これには応じる「法的根拠」はありませんので、
併せて覚えておいて頂ければと思います。
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