貸倒損失の立証責任は国税か納税者か?
※2020年7月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
今年3月下旬から連載で「貸倒損失」について
解説してきましたが、今回で最後となります。
今回は「貸倒損失の立証責任」を取り上げます。
原則として、税務調査における否認(指摘)に
関する立証責任は国税側にあります。
ただし、貸倒損失の立証責任については
少し事情が変わってきます。
国税側に全面的に立証責任があるとすると、
例えば、「相手方に連絡が取れない」
「過去に督促をしたことがあるのか」など、
貸倒損失を計上するに至った経緯・事情や、
その時期・回収努力の状況などを
国税側は実質的に事実認定ができない
(納税者にしかわからない部分が大きい)
と考えられているからです。
ですから、貸倒損失に関する立証責任は、
納税者側で対象となる債権の
・発生原因
・その内容
・誰に帰属するのか
・回収不能の事実
などについて具体的に主張する必要があり、
そのためには、
●契約書や発注書など
●回収努力の履歴
(内容証明郵便など)
などを残しておき、税務調査では
提示・提出する必要があります。
仙台高裁平成8年4月12日判決
貸倒損失は、所得金額の算定にあたって
控除すべきものであり、所得の発生要件事実
を構成すると考えられるので、貸倒損失の
有無が争われる場合には、所得の一定額の
存在を主張する課税庁側において当該
貸倒損失の不存在を立証すべき責任がある。
しかしながら、貸倒損失は、通常の事業活動
において、必然的に発生する必要経費とは
異なり、事業者が取引の相手方の資産状況
について十分に注意を払う等合理的な
経済活動を遂行している限り、必然的に
発生するものではなく、取引の相手方の破産等
の特別の事情がない限り生ずることのない、
いわば特別の経費というべき性質のもの
である上、貸倒損失の不存在という消極的事実
の立証には相当の困難を伴うものである反面、
被課税者においては、貸倒損失の内容を熟知し、
これに関する証拠も被課税者が保持しているのが
一般的であるから、被課税者において貸倒損失
となる債権の発生原因、内容、帰属及び
回収不能の事実等について具体的に特定して
主張し、貸倒損失の存在をある程度合理的に
推認させるに足りる立証を行わない限り、
事実上その不存在が推認されるものと
解するのが相当である。
このように全面的に立証責任が納税者にある
わけではないのですが、「ある程度合理的に
推認させるに足りる立証」が必要となり、
貸倒損失に関して何らの資料・証拠等も
ない場合、貸倒損失は認めらないでしょう。
さて、本連載では貸倒損失に関して、
法的な説明はもちろん実務的な視点で
解説してきました。
一般的には、通達9-6-1~3だけが
解説されることが多いのですが、
実務上は民法上の時効や債務免除の方が
大事になってきますので、通達のみならず
民法を含めて体系的に理解をしてください。
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