貸倒損失:時効の援用とは何か?
※2020年4月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
前回から「貸倒損失」について取り上げていますが、
今回は「時効の援用」。
前回の復習になりますが、債権の消滅時効が
成立するには要件があり、
A:時効期間が経過していること
B:時効の援用がされていること
C:時効の中断(更新)・停止(猶予)事由がない
を全て満たしていることです
(Aだけが要件ではありません)。
Aは民法改正によりほぼ「5年」に統一された
ので、話はわかりやすいのですが、債権発生から
5年を経過すれば自然に債権が消滅する
わけではない、という認識が重要です。
時効期間が過ぎた後でも債務者に売掛金等の
請求をすることはできますし、
裁判や支払督促を行うこともできます。
ただし、その際に債務者が「時効を援用」すれば、
(時効年数が経過していれば)債権は消滅します。
時効というのは時効の利益を受ける者(債務者)が、
「時効であることを主張する」(時効を援用する)
ことによって成立します。
時効の援用とは、
・債務者が行う行為
・債権者に対して時効年数が経過したので
「債務を払わない」ことを意思表示するもの
・債権者に対して有効に伝わっていること
であり、これらの行為があって初めて
その債権債務は消滅することになります。
債権者が債務者によって時効の援用がされた
ことを認識していない限り、債権は
法的に残り続けているのです。
前回も解説しましたが、
税務調査で「これは時効がかなり前に到来している
ので貸倒損失計上時期が違います」(期ズレ)、
もしくは「税務上の時効(5年超)なので
貸倒損失は損金になりません」と否認指摘を
受けても、時効の援用がなされていない限り、
この債権は法的に存在していますから、
この否認指摘は間違っていることになります。
そもそもからすると、税務上貸倒損失が
問題になるのは、債権が法的に残っているからです。
だからこそ、基本通達9-6-1~9-6-3の
規定が存在し、「法的には」債権が残っていても
「税務上は」損金にしていい範囲を定めています。
一方で、債権が法的になくなれば、税務上の
判断を待たずに貸倒損失を計上できますし、
計上時期を判断する必要性もないのです。
この論点は民法が絡むところなので、
税理士・会計事務所は認識されていないことが
多いのですが、貸倒損失を計上するには
必ず知っておかなければならない論点です。
また、調査官も時効の援用が債権の
消滅時効要件であることを知らないことが
多いので、要注意というわけです。
次回は、民法の改正・施行を含めた
時効期間・年数について解説します。
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