持戻し免除の意思表示の推定に関する法務・税務の検証
※2022年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
税理士法人レディングの木下でございます。
今回のテーマは
「持戻し免除の意思表示の推定に関する法務・税務の検証」です。
令和元年7月1日
民法(相続法)の多くが施行されました。
その中に・・・
「持戻し免除の意思表示の推定」
という新設規定があります。
法の制度趣旨は・・・
「高齢の配偶者の生活保障」にあります。
―――
(特別受益者の相続分)民法903条4項
婚姻期間が二十年以上の夫婦の
一方である被相続人が、他の一方に対し、
その居住の用に供する建物
又はその敷地について
遺贈又は贈与をしたときは、
当該被相続人は、
その遺贈又は贈与について
第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したもの
と推定する。
―――
例えば・・・
推定相続人:配偶者、長男
被相続人の財産:
居住用不動産4,000万円
その他の財産6,000万円
あった場合に、
配偶者へ居住用不動産
2,000万円分(2分の1)を生前贈与し、
その翌年に相続発生したとします。
相続税法では
3年内贈与加算は適用されません
(相法21の2(4))。
これに対し民法では
生前贈与は特別受益に該当するものとして相続財産に加算して
相続財産に割当を考えることになります(民法903(1))。
配偶者の取り分:
(8,000万円+2,000万円)×1/2
―2,000万円=3,000万円
長男の取り分:
(8,000万円+2,000万円)×1/2
=5,000万円
となってしまい、
贈与をした場合
と
贈与をしていない場合
で同じ結果となってしまいます。
このままでは・・・
配偶者の長年の貢献に報いることができないばかりか
配偶者の老後の生活保障が図られない可能性もあります。
そこで・・・
要件を満たした場合には
「遺産の先渡し(特別受益)を受けたものとして取り扱わなくてもよい」
こととして推定されることになりました。
換言すると・・・
特別受益の持戻し免除の意思表示が推定されることになりました。
具体的には・・・
配偶者の取り分:
8,000万円×1/2=4,000万円
ここに実質的には
生前贈与2,000万円が加算され
6,000万円となります。
長男の取り分:
8,000万円×1/2=4,000万円
結果として・・・
贈与をした場合
と
贈与をしていない場合
とで
配偶者が取得できる財産に差異が生じることになります。
本制度は・・・
1.贈与だけでなく遺贈でも可能であること
2.金額に制限がないこと
が特徴になります。
この点が
贈与税の配偶者控除(相法21の2)
と異なることになります。
その点は注意が必要となります。
次回は、この制度を用い税務まで考慮した
配偶者保護の具体的な方法を検証いたします。
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