貸倒損失の申告調整(別表加減算)は認められるのか?
※2024年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
今回は税理士・会計事務所の実務上、常に税務判断に
迷うことになる【貸倒損失】について、申告調整
(別表加減算)がどこまで認められるのかを解説します。
貸倒損失を計上することは、税務上(将来を含む)
税負担を減らす効果がある一方で、会計上の利益が
多額に減る(赤字になることも多い)ことから、
「銀行対策として困る」という経営者も多いことでしょう。
これら対応策としてまず考えられることは、特別損失などに
貸倒損失を計上するのではなく、販管費の別科目もしくは
売上のマイナスとして計上することです。
この場合、会計上の利益額は変わらないものの、
貸倒損失が少額であれば、あえて他科目に計上することで、
銀行からも税務署からも目をつけられづらくなる
ことは間違いないでしょう(税務署としては貸倒損失が
計上されていると税務調査の選定をする確率が上がる)。
なお、貸倒損失の勘定科目を使わず他科目とすることでも
損金経理要件は満たしていることになるのですが、
この論点に関しては、一昨日に発売開始した
「税務調査で否認されない貸倒損失/徹底解説テキスト」
https://kachiel.jp/lp/20240603_data/
をご覧いただければ、解説を載せています。
また、明確に銀行対策といえる処理方法としては、
申告調整(別表減算)をすることが挙げられます。
会計上は貸倒損失を損失処理せず、申告調整(別表減算)
することが認められるのは、損金経理要件がない
貸倒通達9-6-1=債権債務が法的に滅失した場合に
該当することのみとなりますので、
この点は注意しなければなりません。
例えば、長期滞留債権の相手方に対して債務免除した、
また相手方が破産・特別清算したことで法人自体が
なくなった(閉鎖登記された)場合がこれに該当します。
会計上の赤字回避が優先なのであれば、
申告調整(別表減算)で処理すべきで、間違っても
所得が多額になる期に先延ばすべきではありません。
上記と逆のパターンも考えてみましょう。
長期滞留債権があるものの相手方が破産などしておらず、
税務上の貸倒損失として認められるか(9-6-2に
該当するか)自信がないため、
会計上:貸倒損失として計上
税務上:別表四で加算(自己否認)
として処理した場合で、次期以降に税務上の
貸倒損失とするにはどうすればいいのでしょうか。
このようなケースにおいて、まず9-6-1に該当する
(相手方が破産するなど法的に債権が滅失した)場合、
当期の別表減算で処理すればよく、過去分の是正であれば
更正の請求をすることができます。繰り返しますが、
9-6-1には損金経理要件がないからです
(もちろん更正の請求の期限内であることが前提)。
一方で、相手方のさらなる業績悪化や、いわゆる
「飛んだ」と言われるような状況になり、「実質的に」
債権の回収不能と判断し9-6-2の適用をする場合、
会計上:過年度損益修正益として債権を計上(戻入)
税務上:別表四で減算
と処理することになります。
このように面倒な処理をする理由は、9-6-2を
適用する場合、少なくとも税務署は損金経理要件を
求めることから、外形的にも損金経理したことを
処理上で明示するためです。
なお、9-6-2の適用において本当に損金経理が
必要とされるのかは疑義があるところなのですが、
この論点に関しては下記をご覧ください。
「通達9-6-2を根拠とした更正の請求は
本当にできないのか?」
https://kachiel.jp/?p=44368
このケースにおいて、現実的に貸倒損失が否認される
リスクを考えると、9-6-2の適用をしない方が
無難でしょう。「実質的に」債権が回収不能かどうかは
判断が難しく、税務調査では常に否認リスクを伴います。
9-6-2の適用をするくらいであれば、
債務免除を行うことによって、その期の貸倒損失として
9-6-1を根拠にした方が否認リスクはなくなります。
この点も「税務調査で否認されない貸倒損失/徹底解説テキスト」
https://kachiel.jp/lp/20240603_data/
で詳しく解説していますので、参考にしてください。
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