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2022.09.16

不正・横領の税務/第4回:法人に重加算税が課される論点

※2021年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

株式会社KACHIELの久保憂希也です。

水曜の本メルマガでは連載で、従業員の不正・横領が
発覚した場合の税務処理について解説していますが、
今回は従業員が行った不正・横領について
法人の所得と認定された場合に、法人に重加算税が
課されるのか、という論点について解説します。

ここではまず、重加算税の法律規定を確認します。

国税通則法第68条第1項
(略)納税者がその国税の課税標準等又は
税額等の計算の基礎となるべき事実の全部
又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、
又は仮装したところに基づき納税申告書を
提出していたときは、(略)当該基礎となるべき
税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した
金額に相当する重加算税を課する。

「【納税者が】仮装隠ぺいをすれば重加算税」
という規定ですが、この納税者が法人の場合、
代表者の不正はともかくとして、従業員などは
その範囲に含まれるのかが論点になります。

さて、法人の役員・従業員が行った不正に関して
法人に重加算税が課されるのかを争った
公開裁決事例が多数掲載されています。

公開裁決事例:重加算税 > 請求人以外の行為

これら裁決事例における重加算税の判断基準・要素を
挙げると、大きくは2つに集約できます。

●不正を行った従業員が重要な事務を担当していたこと

法人における地位や権限が大きな判断基準となります。
この点から、(代表者ではない)取締役などの不正は
法人の行為と同一視され、重加算税が課されるでしょう。

また、役員ではない従業員の場合、社内での地位は
ないにしても、職務上の権限の範囲内で不正を
行っていた場合、重加算税となる可能性が高いです。

よくある不正の形態として、経理担当者による
不正がありますが、「従業員は法人の経理事務を
担う重要な地位にいたこと」と判断され、
重加算税が課された有名な裁決事例もあります。

「請求人の従業員の行った不正経理行為は、
請求人の行為と同一視されるとして、
重加算税の賦課決定処分を認容した事例」

(平成17年6月29日裁決)

この点、不正を行った従業員が「職制上の
重要な地位に従事したことがなかった」として
法人に重加算税が課されなかった事例もありますので
下記の記事を併せて参照してください。

「従業員不正が自己の利得のみを目的として
行った場合の重加算税」

●従業員に業務を任せきりにしていたこと
(法人による管理・監督の状況)

これは一般的にいう「コンプライアンス」に近い
論点ですが、法人として管理・監督責任を
果たしていたかというポイントが重要になります。

従業員の業務に関して確認・チェックをしていたか、
していたとしても、どの程度行っていたのか、
が重加算税の分岐点になります。

平たく言えば「会社側として努力をすれば
従業員の不正に気付くことができた」となれば
重加算税になり、逆に「努力していたが
気付くことができなかった」となれば
重加算税は課されないという論点です。

上記の不正経理の裁決事例では、

・現金出納帳などの確認をすれば容易に
不正を把握できたと認められる

・法人はそれらの確認を行っていないこと

として、法人に重加算税が課されています。

税務調査では法人側のよくある主張・反論として、
「不正は従業員が勝手にやったことだ」という
ことかと思いますが、これでは論拠としては弱く、
「法人側として従業員が不正をしないように
努力していた」が「従業員がそれを超えて不正した」
と主張することが必要になってくるわけです。

来週金曜の本メルマガでは、従業員による
不正・横領の税務としては最後の論点となる
「貸倒損失の計上」について解説します。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

著者情報

久保憂希也

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