不正・横領の税務/第4回:法人に重加算税が課される論点
※2021年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
水曜の本メルマガでは連載で、従業員の不正・横領が
発覚した場合の税務処理について解説していますが、
今回は従業員が行った不正・横領について
法人の所得と認定された場合に、法人に重加算税が
課されるのか、という論点について解説します。
ここではまず、重加算税の法律規定を確認します。
国税通則法第68条第1項
(略)納税者がその国税の課税標準等又は
税額等の計算の基礎となるべき事実の全部
又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、
又は仮装したところに基づき納税申告書を
提出していたときは、(略)当該基礎となるべき
税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した
金額に相当する重加算税を課する。
「【納税者が】仮装隠ぺいをすれば重加算税」
という規定ですが、この納税者が法人の場合、
代表者の不正はともかくとして、従業員などは
その範囲に含まれるのかが論点になります。
さて、法人の役員・従業員が行った不正に関して
法人に重加算税が課されるのかを争った
公開裁決事例が多数掲載されています。
これら裁決事例における重加算税の判断基準・要素を
挙げると、大きくは2つに集約できます。
●不正を行った従業員が重要な事務を担当していたこと
法人における地位や権限が大きな判断基準となります。
この点から、(代表者ではない)取締役などの不正は
法人の行為と同一視され、重加算税が課されるでしょう。
また、役員ではない従業員の場合、社内での地位は
ないにしても、職務上の権限の範囲内で不正を
行っていた場合、重加算税となる可能性が高いです。
よくある不正の形態として、経理担当者による
不正がありますが、「従業員は法人の経理事務を
担う重要な地位にいたこと」と判断され、
重加算税が課された有名な裁決事例もあります。
「請求人の従業員の行った不正経理行為は、
請求人の行為と同一視されるとして、
重加算税の賦課決定処分を認容した事例」
(平成17年6月29日裁決)
この点、不正を行った従業員が「職制上の
重要な地位に従事したことがなかった」として
法人に重加算税が課されなかった事例もありますので
下記の記事を併せて参照してください。
「従業員不正が自己の利得のみを目的として
行った場合の重加算税」
●従業員に業務を任せきりにしていたこと
(法人による管理・監督の状況)
これは一般的にいう「コンプライアンス」に近い
論点ですが、法人として管理・監督責任を
果たしていたかというポイントが重要になります。
従業員の業務に関して確認・チェックをしていたか、
していたとしても、どの程度行っていたのか、
が重加算税の分岐点になります。
平たく言えば「会社側として努力をすれば
従業員の不正に気付くことができた」となれば
重加算税になり、逆に「努力していたが
気付くことができなかった」となれば
重加算税は課されないという論点です。
上記の不正経理の裁決事例では、
・現金出納帳などの確認をすれば容易に
不正を把握できたと認められる
・法人はそれらの確認を行っていないこと
として、法人に重加算税が課されています。
税務調査では法人側のよくある主張・反論として、
「不正は従業員が勝手にやったことだ」という
ことかと思いますが、これでは論拠としては弱く、
「法人側として従業員が不正をしないように
努力していた」が「従業員がそれを超えて不正した」
と主張することが必要になってくるわけです。
来週金曜の本メルマガでは、従業員による
不正・横領の税務としては最後の論点となる
「貸倒損失の計上」について解説します。
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