役員報酬を低額にするリスク(役員貸付金の観点)
※2024年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
顧問先の中には、社長の役員報酬をかなり低額(10万円/月など)
に設定している法人も多いのではないでしょうか。
役員報酬を低額に設定する理由として、
法人の業績が良くない=銀行対策として大幅な赤字にできない
というケースが多いでしょう。
※法人の業績は良く、社保対策として役員報酬を低額にする
=事前確定届出給与を高額にしているケースについては、
来週のメルマガで税務リスク(退職金)を解説します
役員報酬を経営者が生活できないほど低額に設定すると
(経営者が個人資産の取り崩しを行わない限り)、
「法人から出金して生活する=法人の貸付金とする」
という方法に頼らざるを得ません。
さて、先日税務調査に関する相談を受けた事案は下記です。
・役員報酬が低額
・役員貸付金の残高が年々増加している
・適正利率を設定し未収利息を計上している
・ただし金銭消費貸借契約書はない
という前提事実の中で、調査官から「返済も行われていない
ことから、実態としては貸付金ではなく役員賞与」
と否認指摘・修正申告の勧奨をされたのです。
私としては、このような否認指摘が初めてだったので、
ネット検索をしてみたところ、類似の判決・裁決事例は
見当たらないものの、確かに多数の税理士が
「税務調査で指摘されるリスクがある」としていました。
その否認根拠はどのサイトにも載っていませんでしたが、
税務調査で否認指摘を受けた経験がある税理士が多いのでしょう。
まず、調査官が考え方を混同している可能性が高いです。
(税務調査など関係ない)一般的な取引として、
法人が役員に金銭を貸付けた場合、その金銭使途が
個人的費消であろうと何であっても貸付金に変わりありません。
一方で、法人が受領すべき金銭(事業収入など)を
役員が個人受領していたことが税務調査で判明した場合、
判例上は資金使途によって、
●現金や個人口座に金銭がそのまま残っていた場合=貸付金
●個人的な費消がされていた場合=役員賞与(経済的利益の供与)
と判断されることになります。
ですから、法人が受取るべき金銭を役員が受領していた
ケースを除き、単に役員が法人から借入をしていた場合、
税務調査において役員賞与と指摘されても、
修正申告に応じる論拠はないです。
さて、現実的にこの論点=役員貸付金が役員賞与と指摘される
ことが問題になる理由としては「金銭消費貸借契約書がない」
ことが根本的な理由でしょう。
金融機関からの個人借入をどのような資金使途に使っても
自由である一方、金銭消費貸借契約書があり、
返済義務・実績があるからこそ借入金=贈与など
経済的利益の供与にならないことが明確になっているのです。
法人と役員個人が「右手と左手」のようにほぼ一体として
資金融通され、「実際に返済していないどころか
残高が増え続けている」ことから、契約書がないのと併せて
事実認定として貸付金ではなく、実態・実質として
調査官が経済的利益の供与=役員賞与と指摘するのも、
何の論理もないとは言い切れないでしょう。
以上から、役員貸付金が一時的に解消できないほど
多額もしくは残高が増え続けている場合は特に、
最低限として金銭消費貸借契約書を作成すべきで、
可能であれば毎月返済(役員報酬から天引き)して
おくことで、役員賞与と指摘されるリスクを
下げることができるでしょう。
なお、役員貸付金については適正利率を設定することが
マストなのですが、この考え方を間違っている方も
多いので、併せて下記記事を参考にしてください。
「役員貸付金の利率は何%にすべきか?」
https://kachiel.jp/?p=28674
さて、来週水曜の本メルマガでは、
事前確定届出給与を支給し、役員報酬額を低額に
設定している場合の税務リスクについて解説します。
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