役員報酬を低額にするリスク(役員退職金の観点)
※2024年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
先週水曜の本メルマガでは、役員報酬を通常の生活が
できない程度の額に設定・支給し、法人の役員貸付金が
年々増加している場合のリスクに関して説明しました。
今回は、事前確定届出給与を設定・支給し、役員報酬額を
低額に設定している場合のリスクについて解説します。
社会保険料の負担軽減のため、事前確定届出給与を高額に、
役員報酬月額を低額にすることは、わりと浸透している
方法だと思いますが、ここには1つ大きなリスクがあり、
役員退職金(特に死亡時)の損金算入限度額の計算上、
最終月額報酬が低額=役員退職金の損金算入限度額が低額
になってしまうということが想定されます。
この論点は単純で、役員退職金を功績倍率法で計算するに
あたっての「最終月額報酬」が
●事前確定届出給与を含まない月額報酬
●事前確定届出給与を含む年報酬総額を12で割った金額
のどちらなのか、という点です。
この論点に関して完全な結論は無いのですが、
少なくともリスクがあることは認識しておくべきです。
まず「事前確定届出給与を含む年報酬総額を12で割った金額」
の考え方ですが、役員退職給与規程において
・退職金支給額を功績倍率法による計算と設定
・計算の基礎となる「最終月額報酬」を「その役員に対する
定時株主総会から次の定時株主総会までの1年間の
任期期間に係る報酬総額の12分の1の金額」と規定
することで役員退職金(の損金算入限度額)が
低額になるリスクを避けることができるとするものです。
最も有名なところで「役員退職給与を巡る諸問題 増補改訂版」
(大蔵財務協会)において、この旨が明記されています
(著者の衛藤政憲先生は、他にも「国税速報」などで
同趣旨の記事も書かれています)。
一方で、これに真っ向から反対する「事前確定届出給与を
含まない月額報酬」の見解の方が優勢でしょう。
平成27年6月23日裁決(F0-2-599)において
平均功績倍率法における最終報酬月額は、月額役員報酬と
事前確定届出給与による支給額を合計した年額を
12分の1した額を利用するのではなく、あくまで
月額のみの役員報酬額とするという判断内容(結論)であり、
その後に裁判となった平成29年10月13日東京地裁
(Z267-13076)においては、この論点が
争点にならなかったことが最大の理由でしょう。
この考え方を強く主張している書籍としては
「役員給与(第2版)」(中央経済社)があります。
「事前確定届出給与を含まない月額報酬」とする見解に
至る論拠としては下記が挙げられます。
●国税が「役員退職金は不相当に高額」と否認するには、
結局は類似法人と比較するわけですが、類似法人の
ほとんどは事前確定届出給与制度を利用していない
ことから、年間報酬額を12で除した額を使用すること
自体がおかしいとされる
●法基通9-2-27の3(注)において、
「本文の功績倍率法とは、役員の退職の直前に支給した
給与の額を基礎として~」として規定されている以上、
文理解釈上は事前確定届出給与額が最終報酬月額に
含まれていると解釈することは難しい
以上から、実務上の対応(リスク許容度)は
ケースによって分けて考えた方がいいでしょう。
■役員報酬月額が低額で事前確定届出給与が高額の
経営者が【亡くなった】場合
役員退職給与規程がない場合、規程の整備をしたうえで、
「事前確定届出給与を含む年報酬総額を12で割った金額」
を最終月額報酬とした役員退職金を支給するが、
その否認リスクを顧問先(相続人)にきちんと説明する
■経営者が現任している場合の対応方法
・役員報酬を低額にすると退任時もしくは死亡時の
役員退職金が低額になる可能性のリスクを事前説明しておく
・役員退任時が決まっている場合、その進行期において
事前確定届出給与をやめて月額報酬を上げる
・特に高齢になってきている経営者に対しては
事前確定届出給与の活用を提案しない、もしくは
実施するにしてもリスクが高い旨を説明する
事前確定届出給与を出している法人と経営者は、
ある一定以上の資産があるでしょうから、
役員退職金も相当多額であることが想定され、
否認された場合のリスクは高くなりますので、
より慎重に対応した方がいいでしょう。
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