法人版事業承継税制における代表者要件の検証
※2024年7月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
今回のテーマは、
「法人版事業承継税制における代表者要件の検証」です。
前回では、
特例後継者(特例経営承継受贈者)が
備えるべき要件の1つに
役員継続3年要件(措法70の7の5(2)六へ)
に関する改正議論を取り上げました。
今回は事業承継税制の適用において
最もネックとなる「代表者要件」を検証します。
贈与者(先代経営者)の要件の1つとして、
以下が挙げられます。
(1)贈与の「時前」において代表権を有していたこと
(措令40の8の5(1)一柱書)
—
法第七十条の七の五第一項の規定の適用に係る贈与の時前において、
同条第二項第一号に規定する特例認定贈与承継会社
(以下この条において「特例認定贈与承継会社」という。)
の代表権(制限が加えられた代表権を除く。イ及びロにおいて同じ。)
を有していた個人で、次に掲げる要件の全てを満たすもの
—
贈与の「時」ではなく、
贈与の「時前」とありますので、
・贈与の直前において先代経営者が代表権を有している
・過去において先代経営者が代表権を有していた
という2つのパターンが考えられます。
また、贈与者(先代経営者)の要件の1つとして、
以下も挙げられます。
(2)贈与の「時」において代表権を有していないこと
(措令40の8の5(1)一ハ)
—
当該贈与の時において、当該個人が当該特例認定贈与承継会社の
代表権を有していないこと。
—
ここでは、代表権を有していないことだけが
求められており、役員でいること自体を
否定するものではありません。
平成21年度税制改正により創設された
事業承継税制(一般版)では、
先代経営者要件の1つとして
贈与の時において役員を退任していること
(旧措法40の8の8)が
求められていました。
特例後継者の信用力が低い状況で
先代経営者が役員まで退任してしまうと
法人そのものの信用力も低下してしまう
可能性があるため、平成25年度税制改正
において、
・贈与の「時」において代表権を有していないこと
と改正され、それをそのまま特例版も
踏襲する形となっています。
■(1)の検証
代表権を有していた個人の就任期間などにつき、
法令上は特段制限を課していません。
仮に、一次相続(父:社長)において
自社株評価が高く、後継者である子(長男)
に相続させることができなかった場合を
想定してみましょう。
自社株対策を講じる期間を確保するため
配偶者(母:専業主婦)に相続させ
配偶者の税額軽減特例を使って一次相続
を乗り越えることが一般的に行われる
かと思います。
その際、二次相続において
事業承継税制を適用させるために
形式的に母を代表者にし、
期間的に短い間に代用を退任させ、
その後、長男が代表に就任した後
母から長男へ自社株を贈与した場合、
問題は生じないのでしょうか。
可能性の問題としてはリスクがあると
考えています。
なぜならば、事業承継税制(一般版、特例版)は
相続税法64条(同族会社等の行為又は計算の否認等)
を準用しているためです
(措法70の7の5(10)が準用する同法70の7(14))。
つまり、相続税を免れる目的のために
専業主婦である母を代表者にした場合には
税務調査の場面において、
実質的に「代表権を有していた個人」に
該当しないと判断された場合には
先代経営者要件を満たさないことになります。
形式的な代表者就任は税務リスクがありますので
安易な代表者就任は避けるべきと考えます。
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