相続時精算課税のリスク確認(2)
※2024年4月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
税理士法人レディングの木下勇人です。
今回のテーマは、
「相続時精算課税のリスク確認(2)」です。
今回も前回に引き続き
「相続時精算課税のリスク確認」を解説していきます。
「相続時精算課税のリスク」項目を
列挙すると以下のとおりとなります。
1.選択後は暦年課税に戻れない
2.基礎控除を超える贈与は「期限内」申告が必要
3.小規模宅地等の特例は適用不可
4.相続税が発生することあり
5.物納不可
6.特定贈与者よりも受贈者が先に死亡する
前回は、
1.選択後は暦年課税に戻れない
を確認しました。
今回は、
2.基礎控除を超える贈与は「期限内」申告が必要
を確認したいと思います。
令和5年度税制改正により
相続時精算課税に係る贈与税につき基礎控除が
新設されたのは何度もお伝えしてきました
(相法21の11の2(1))。
令和5年12月31日までの贈与につき
相続時精算課税を選択した場合には、
特別控除(2,500万円)を適用する場合には
必ず期限内申告をする必要がありました。
しかし、相続時精算課税に係る贈与に
基礎控除が新設されたことにより
基礎控除を超えた場合にのみ
申告義務が課せられ(相法28(1))、
基礎控除後の金額から特別控除を適用する場合
には期限内申告が求められることになります
(相法21の12(2))。
大切な条文ですので、条文を使って検証します。
—
(相続時精算課税に係る贈与税の特別控除)
第二十一条の十二 相続時精算課税適用者がその年中において
特定贈与者からの贈与により取得した財産に係る
その年分の贈与税については、特定贈与者ごとの
前条第一項の規定による控除後の贈与税の課税価格から
それぞれ次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を控除する。
一 二千五百万円(既にこの条の規定の適用を受けて
控除した金額がある場合には、その金額の合計額を控除した残額)
二 特定贈与者ごとの前条第一項の規定による控除後の贈与税の課税価格
2 前項の規定は、期限内申告書に同項の規定により控除を受ける金額、
既に同項の規定の適用を受けて控除した金額がある場合の控除した金額
その他財務省令で定める事項の記載がある場合に限り、適用する。
3 税務署長は、第一項の財産について前項の記載がない
期限内申告書の提出があつた場合において、
その記載がなかつたことについてやむを得ない事情があると
認めるときは、その記載をした書類の提出があつた場合に限り、
第一項の規定を適用することができる。
—
1項:
「特定贈与者ごとの前条第一項の規定による控除後の贈与税の課税価格から」
この部分から、特別控除を適用する前に
基礎控除の適用があることが読み取れます。
そのうえで、基礎控除後の残額から
1号か2号のいずれか低い方を控除する
ことなっています。
以下、相続時精算課税を受贈者が選択したとします。
(1)1年目 贈与500万円
2年目 贈与400万円
1年目:
(500万円-110万円)-390万円=0
1号:初年度なので2,500万円
2号:390万円
2,500万円<390万円 ∴390万円
2年目:
(400万円-110万円)-290万円=0
1号:2,500万円-390万円=2,110万円
∵1号かっこ書きより
適用分は2,500万円から控除される
2号:290万円
2,110万円<390万円 ∴390万円
(2)1年目 贈与3,000万円
(3,000万円-110万円)-2,500万円=390万円
1号:初年度なので2,500万円
2号:2,890万円
2,500万円>2,890万円 ∴2,500万円
390万円に税率20%を乗じ
贈与税額78万円を算出する(相法21の13)。
2項:
期限内申告書に必要事項の記載(相規12)
がある場合に限り
1項の規定を適用する。
つまり、特別控除を使う場合には
期限内申告書に必要事項を
記載しなければならないことを
規定しています。
留意通達(相基通21の12-1)には
特別控除を使う場合には、
期限内申告書の提出が必要であることを
明示しています。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/12.htm#a-21_12_1
期限後申告する場合には、
特別控除の適用を受ける余地はありませんので
申告義務の有無につき細心の注意を
払う必要があります。
仮に期限後申告する場合には
特別控除の適用は不可となるため、
基礎控除後の残額に税率20%を乗じた
本税と、無申告加算税、延滞税の
負担を強いられることになります。
3項:
期限内申告書に特別控除の適用を受けようとする
財産として記載をしたが、申告期限後に評価誤りが
あった場合には、正しい控除を受ける金額の記載が
なかったことにやむを得ない事情があると税務署長
が認める場合には、正しい控除金額を記載した
修正申告書の提出があった時に限り、修正申告により
増加する課税価格についても特別控除の適用を
受けることが可能となります。
つまり、期限内申告をしたが
評価誤りがあった場合には宥恕規定が
適用される余地があります。
国税庁/質疑応答事例/相続時精算課税適用財産について評価誤り等が判明し修正申告を行う場合の特別控除の適用
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/16a/10.htm
次回も引き続き
相続時精算課税のリスク確認(3)を
確認することにします。
※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。
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