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2021.08.06

社内イベント費用が交際費として課税された裁判

※2019年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

株式会社KACHIELの久保憂希也です。

「社内イベント費用が課税されない要件」
「社内旅行の「高額」とはいくらなのか?」では
社内イベントの経済的利益について解説しました。

さらに税務実務をするうえで判断が難しい項目に、
社内イベントの費用が「交際費か福利厚生費か」
というものが挙げられます。

今回は、全社集会の費用が
「交際費か福利厚生費」で争った判決を取り上げます。

福岡地裁平成29年4月25日の判決で、
専ら従業員等の慰安のために行われた「感謝の集い」
にかかる費用を、福利厚生費として処理していたものを
税務調査において交際費として否認された事案です。

さて、この該当法人ですが業種は
「養鶏事業、食肉等食料品の販売事業」で、
工場を含めて7事業所あり、従業員数は約1,000人。
年に1回、全社の集まりを開催しています。

国税側が交際費とした論点は大きく2つです。

【1】交際費と福利厚生費の(法的)区分

「本件行事は、原告及び協力会社等の全従業員を
対象としており、これらの従業員は、
措置法61条の4第3項の「その得意先、仕入先
その他事業に関係のある者等」に該当することから、
「交際費等」に該当する支出の相手方となる。また、
本件行事は、参加者の慰安を目的として飲食の提供
及びコンサート鑑賞を行ったものである。したがって、
本件行事に係る支出は、措置法61条の4第3項柱書の
「交際費等」に該当する要件を満たしている。」

【2】金額基準

「措置法61条の4第3項並びに措置法通達61の4
(1)-10及び同(1)-18によれば、
会社の従業員等の慰安行事に係る費用は、
「通常要する費用」の範囲内である限り、
福利厚生費として「交際費等」から除外されるところ、
当該費用が「通常要する費用」の範囲内であるか
否かについては、当該行事が、法人が費用を
負担して行う福利厚生事業として社会通念上一般的に
行われていると認められるものであることを要し、
その判断に当たっては、行事の規模、開催場所、
参加者の構成及び一人当たりの費用額、
飲食の内容等を総合して判断すべきである。」

ここにいう「感謝の集い」は、平日の日中、
4~5時間のみ行われているもので、
宿泊は伴っておらず、従業員に参加人数・率、
および従業員1人あたりの費用は下記です。

平成20年3月期:954人 72.7% 2万8726円
平成21年3月期:925人 72.5% 2万4159円
平成22年3月期:946人 71.4% 2万2254円
平成23年3月期:1003人 73.3% 2万2022円
平成24年3月期:1022人 75.1% 2万1972円

裁判所の判断基準として、最終的には
金額の妥当性、つまり「通常要する費用」か
どうかに帰結するわけですが、その前提として
「本件行事に係る費用が社会通念上福利厚生費として
認められる程度を超えるものであるか否か
について検討」されています。

○開催の目的

「従業員の一体感や会社に対する忠誠心を醸成して、
更なる労働意欲の向上を図るためには、従業員全員
において非日常的な体験を共有してもらうことが有効」

○日帰り開催している理由

「従業員の女性比率の高さ等に照らせば、
原告の事業に支障を来すことなく、可能な限り
全員参加が可能な慰安旅行の日程を考えると、
原告においては、宿泊を伴う旅行は現実的ではなく、
日帰り旅行にせざるを得ない状況にあった」

○必要性・相当性

「本件行事の目的、開催頻度、会場の性質、
従業員の女性比率の高さ、日程の制約等に加えて、
本件行事に参加するための従業員の移動時間は
往復3時間ないし6時間に及ぶことなどを
考慮すれば、本件行事の内容として、
県外への旅行等に代わる非日常的要素として、
大型リゾートホテルにおける特別のコース料理や
プロの歌手や演奏家によるライブコンサート
鑑賞を含めることには、必要性、相当性があった」

以上を前提としたうえで、参加率が70%を超えており、
かつ、日帰り慰安旅行に係る費用として
通常要する程度(範囲内)として、
福利厚生費として認められたのです。

社内イベントであれば、福利厚生費であって
交際費として指摘されることはないと考えている方も
多いようですが、実際はそんなことはありません。

1人あたり2万円ちょっとの費用で否認されている
こと自体が驚きではありますが、逆に言えば
この程度の費用であっても、否認される
リスクはあるということです。

社内イベント費用が交際費か福利厚生費か、
判断基準の1つとしてぜひ参考にしてください。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

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