税務調査:総じて税額減=還付になる場合の交渉方法と落しどころ
※2023年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
6月末が税務署における事務年度の終わりということで、
税務調査も終盤という税理士が多いのではないでしょうか。
さて、つい先日、税務調査において判明した税額増と税額減を
合わせると、税額減=還付になる調査事案の相談がありました。
・領収書等の保存がない仕入税額控除の否認:+100万円
・消費税の課税区分誤りによる仕入税額控除の認容:▲500万円
・その他の細かい否認項目(詳細は省略):+50万円
本来であれば、差引350万円の還付(職権による減額更正)
になるところ、調査官は「150万円で修正申告をしてもらい、
その後に500万円の更正の請求をしてください」と要請してきました。
調査官の思惑は単純で、税務調査の結果が
申告是認であるどころか減額更正であることを嫌がっており、
否認項目があるのだから修正申告で終わらせたい
(その後の更正の請求はあくまでも自主提出)というものです。
ここで論点として考えるべきは、このようなケースにおいて
調査官は調査において把握した【すべての項目をまとめて】
是正する(減額更正を行う)義務はないのか、という点です。
この論点は、いわゆる「更正の請求の排他性」という理論から
説明できるのですが、結論はそのような【義務はない】となります。
詳細については下記をご覧ください。
では、このような調査事案において「減額更正」になる場合と
「修正申告と更正の請求をする」場合の違い、もしくは
納税者にとってのデメリットは何でしょうか?
まず大前提として、修正申告=調査結了後の更正の請求が
そのまま(ほぼスルーで)通る・還付されることが条件ですが、
事務年度をまたぐなど担当調査官に異動・変更がない限り、
更正の請求の処理担当者は同じ調査官となりますので、
この前提は問題ないことがほとんどでしょう。
「修正申告と更正の請求をする」場合の納税者のデメリットは、
・申告書作成などの手続きが煩雑
減額更正は税務署の職権で行われ、そのまま還付となりますが、
修正申告+更正の請求はかなり面倒な作業をともないます
・加算税・延滞税
減額更正は税額がそのまま還付されるだけですが、
修正申告をする場合、加算税+延滞税が課される分だけ
附帯税の納税が追加的に発生します
が挙げられることから、このようなケースにおける
調査官との交渉方法は下記のようにした方がいいです。
●あくまでも職権による減額更正を主張する
上記では、調査官に減額更正をする「義務がない」と
説明しましたが、義務がないだけであって、調査官が
減額更正をしてはならないという論理ではありませんので、
デメリットを回避するため、まずこの主張をすることです
●それでも「修正申告+更正の請求」と言われた場合
上記主張が通らなかった場合、修正申告+更正の請求を
するしかないわけですが、ここでデメリット2点を持ち出し、
「デメリットを受け入れるのだから、他の否認指摘を
(いくつか)取り下げて欲しい」と要請することです
ここで大事なのは、調査官はどうしても
減額更正で終わらせたくない=修正申告にしたい、という
本音・要請を汲みながらも、最終的には増差税額が減るよう、
納税者有利の落しどころに誘導することです。
冒頭の調査事例でいえば、この交渉方法によって
50万円の否認指摘を取り下げてもらえれば、
「修正申告:本税100万円+加算税・延滞税」
(その後の還付額は同じ)となりますので、
総じて納税者が有利となりますが、調査官は
結果として修正申告なので納得しやすいはずです。
単純に調査官の主張を受け入れるわけではなく、調査官も
納得する落しどころ(=納税者有利)にもっていければ
税理士として非常に価値がある調査立会いといえるでしょう。
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