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2025.05.01

重加算税を体系的に理解する(売上計上漏れ)

※2024年7月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

毎週水曜の本メルマガでは連載で「重加算税」について
解説していますが、今回は事務運営指針の規定を論拠に
売上計上漏れが重加算税と指摘されるケースを取り上げます。

今回の論点となるのは下記事務運営指針の規定で、
調査官はこの規定内容をもって売上計上【漏れ】にも
かかわらず重加算税だと指摘してくる調査事案が多いです。

「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」
https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/100703_02/00.htm
第1賦課基準 1(隠蔽又は仮装に該当する場合)
(2)3)帳簿書類の作成又は帳簿書類への記録をせず、
売上げその他の収入(営業外の収入を含む。)の脱ろう
又は棚卸資産の除外をしていること。

この規定内容をパッと読むと、帳簿(=会計処理)上で
売上を計上していない=重加算税になると理解しがちです。

しかし、よく考えると当たり前なのですが、
帳簿上売上を計上していれば売上は漏れておらず、
逆にいえば売上を計上していないからこそ、
売上が漏れている(過少申告になっている)わけです。

このことからも分かるとおり、上記規定はあくまでも
【故意に売上を計上しなかった=脱ろうした】場合に
重加算税になるのであって、売上計上漏れとなった理由が
故意ではない=ミスや確認不足等による場合は、
隠蔽(または仮装)行為に該当しないことから、
重加算税にならない、というのが正しい理解になります。

さて、この事務運営指針規定をもって売上計上漏れが
重加算税かを争った最新の公開裁決事例があり、
その内容が非常に参考になるかと思います
(結果は重加算税の取消しとして納税者が勝っています)。

「請求人が工事代金の一部が申告漏れとなったことについて
課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、
隠匿あるいは故意に脱漏したとまでは認められないとして
重加算税の賦課決定処分を取り消した事例」
(令和5年12月4日裁決)
https://www.kfs.go.jp/service/JP/133/02/index.html

この裁決事例で重要な事実関係を整理・列挙しておきます。

・決算や申告は年1で商工会(税理士関与なし)
・工事代金を現金で受領した場合、通常は領収書を発行
・重加算税の対象となった現金売上は領収書の発行ナシ
・該当現金売上については役員賞与として修正申告
・本人の主張について調査内で申立書を提出してる
・売上計上漏れは年売上の約0.2%であって、
規則性・共通性(特定の顧客のみ売上漏れ等)はない

国税側が重加算税を認定・賦課した根拠は、

役員賞与となることを受け入れている

現金売上を受領し個人的に費消したはず

法人の売上になることを認識していたはず

上記事務運営指針にも該当することから重加算税

となっていますが、国税不服審判所は
領収書を発行しなかった事実や、受領した現金を
個人的に費消した記憶についても、故意に隠蔽した
とまで言い切れない(ミス・認識が曖昧の可能性)
として重加算税を取り消しているわけです。

国税不服審判所は、重加算税の要件である「隠蔽」と
「脱漏(脱ろう)」を下記と解釈しています。

「通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し」とは、
課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、
これを隠匿あるいは故意に脱漏すること(以下、略)」

事務運営指針では単に「脱ろう」と規定されていますが、
本来であれば「故意に脱ろう」と規定すべきでしょう。

なお、事務運営指針や調査官が使う言葉としての
「脱漏(脱ろう)」とは「除外」と同じく、
(漏れたのではなく)【わざと漏らした】という
意味合いなのですが、この論点については本メルマガでも
過去に解説していますので、下記をご覧ください。

「税務調査における「脱漏」の意味」
https://kachiel.jp/?p=34981

補記しておきますが、上記公開裁決事例において
納税者側は、事務運営指針の規定内容をもって
重加算税が賦課されたことに対し、

「本件事務運営指針は、行政機関の内部規定であって、
その運用に当たっては、法令の規定の趣旨に沿い、
具体的な事実関係や証拠を正確、かつ、客観的に精査し
総合的に判断すべきところ、原処分庁は、事実関係全般を
軽視し、帳簿書類への記録がないという事実を短絡的に
捉え結論付けているものといわざるを得ない。」

と主張しており、私もまさにその通りかと考えます。

さて、来週水曜の本メルマガでは、事務運営指針に
規定されている「税目がまたがる場合の重加算税」
の取扱いについて解説します。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

著者情報

木下勇人

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