2024.11.22

税務調査を録音することの可否を論理的に考えてみる

※2023年11月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

株式会社KACHIELの久保憂希也です。

私に対する税務調査の質問・相談において、今年7月以降だけで
2件も「税務調査を録音することの可否」に関する内容がありました。

今回と来週水曜の本メルマガでは、税務調査において録音することの
可否(その論拠)と、その現実的な対応方法について解説します。

まず、税務調査を(納税者が)録音していいのか、という点について
法令や事務運営指針などの通達等に規定はありません。
また、私が知る限り、開示対象となっている国税の内規などにも
税務調査の録音に関する項目はありません。

一方で調査官は、税務調査において録音をされている場合、
それを排除要請すること、録音行為を止めない限り税務調査を
続けないよう教育を受けています。その根拠は「守秘義務を守るため」
と教えられていますが、その理由や論理はよく理解していないはずです。

さて、上記のとおり、調査を録音することについて実定法上の
規定がない以上、税務調査の方法や進め方については、
「権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられている」
(最高裁昭和48年7月10日)となり、調査官が
「録音を止めるように要請する」ことや、「録音している限りは
税務調査をしない」行為などは適法といわざるを得ないでしょう。

実際のところ、通称「荒川民商フォーミュラ事件」の
最高裁平成20年4月24日(大阪高裁平成19年11月16日判決・
京都地裁平成18年10月27日判決)においても、調査官に
課されている税務調査に関する守秘義務違反を理由に、
ビデオカメラによる撮影の中止を求めたことが不当であるとはいえない
と判断・結論付けられており、他の判決でも同じ結論になっています。

ここでの結論は「納税者が税務調査で録音することは許されない」ではなく、
あくまでも調査官が「録音を止めるように要請する」ことや、
「録音している限りは税務調査をしない」行為は許容されるということです。

納税者が調査官に許可を得ず(無断で)やり取りを録音する、
いわゆる「秘密録音」が許されない、という話ではありません。

また、民事上の一般論とはなりますが、有名な判決である
東京高裁昭和52年7月15日では、秘密録音の効力として、
著しく反社会的な手段を用いて取られたものでない限り、
証拠能力は認められる(証拠として適法)と判断しています。

自身が受ける税務調査(実地・対面)を録音する行為が
「著しく反社会的な手段を用いて取られた」と事実認定されることは
無いでしょうし、税務調査の現場における調査官の発言に、
守るべきプライバシーなどは想定できないことから、秘密録音の行為、
およびその証拠能力が否定される論理はないものと考えます。

私から言わせれば、顧客・取引先と商談する際に、
記録として録音する・議事録を残すのと何ら変わらない行為です
(言った・言わないなど、自身のリスクヘッジという観点)。

実際のところ、裁決事例や税務裁判においても、
納税者の録音データ(音声記録)が証拠として認められている事実
(認められなかった裁決・判決等を見たことが無い)からしても、
事実上は納税者による秘密録音は認められていると考えられます。

以上から、税務調査を(納税者が)録音したい場合、

●調査官に言わない(どうせ事前の承諾は得られない)
●バレないように録音する(机の上に伏せたスマホなど)

ことをお勧めします。

来週水曜の本メルマガでは、調査官に録音を止めるよう、
もしくはデータを削除するよう要請された場合など、
税務調査における現実的な対応方法を解説しますが、
下記では私見として「録音の守秘義務」を追記しておきます
(実務に直結しないので・・・あくまでも参考までに)。

上記判決などのとおり、調査官が自身の【守秘義務を理由に】
「録音を止めるように要請する」ことや、「録音している限りは
税務調査をしない」行為は許容されることは判例といえるでしょう。

さて、ここにいう守秘義務とは一体誰の・何に対する・どのような
守るべき秘密であり義務を指すのか、誰も理解できないはずです。

守秘義務を負っているのは調査官です
(国税通則法第127条、国家公務員法100条・109条)。
調査官は対象先の税務調査において知ることのできた秘密を
漏らすことを禁じられています。一方で、納税者に受忍義務は
ありますが、(当然ですが)守秘義務は課されていません。

納税者が税務調査を録音し、その録音データ(音声記録)を
たとえばネット上に流出させたようなケースで想定すると、

・漏らしたのは納税者自身の情報である
・自身の情報を公開した時点で、それは秘密の情報ではない
・漏らしたのは納税者自身であって調査官ではない

ことから、調査官が負う守秘義務とは何ら関係ないことは明白です。

この点に関して、調査官から論理的な回答を得られたという話は
聞いたことがありませんし、調査官も答えを持ち合わせていないでしょう。
論理展開としては、

調査官:負っている守秘義務が守られないから(根拠をもった主張)

納税者:録音データが流出してもそれはあなたの守秘義務と関係ない
(主張の根拠に対する反論)

ですから、この反論に対して調査官からさらなる反論が無い限り、
税務調査を録音してもいい、という答えしか導けないと考えます。

税務調査を録音されたくないのは、守秘義務の問題ではなく、
適正・適切な税務調査を行う自信がない調査官(税務署)が、
揚げ足を取られたくないというリスク回避をしたいだけでしょう。
そうなのであれば、納税者の立場としては
自身のリスク回避のために録音をすべきだと考えます。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

著者情報

久保憂希也

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