2024.11.15

法人所得分散:グループ内取引がある場合と無い場合の否認根拠

※2023年11月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

株式会社KACHIELの久保憂希也です。

法人において節税?を簡単に実行する方法として、
税理士・会計事務所が提案することが多いのは、
同じ株主・代表者で別会社を設立する=兄弟会社を作ることです。

複数の法人を持つメリットは単純で、法人所得800万円以下の
税率が低いことから、売上・所得を分散するだけで
実効税率は簡単に下がりますし、交際費枠が超えている法人は
それだけで交際費枠が倍になることは誰しもがわかる論理です。

同一法人で2以上の事業を行っているのであれば、
別会社化するには合理性=もっともな理由があるわけですが、
単一事業ではあっても、役割や顧客を分割することがあり得ます。

・営業部分と作業部分の役割を法人ごとに変える(下請け)
・○○の顧客はこちらで××の顧客はあちらと固定的に分ける

さて、このように複数法人に分社化して経営することで、
実効税率を下げる=グループ全体で税負担額を下げるにより
税務調査で否認されることはないのでしょうか、あるとすれば
何を根拠に否認されるのでしょうか。

まず、「営業部分と作業部分の役割を法人ごとに変える」など、
兄弟会社間で受発注の取引がある場合ですが、
あり得る否認根拠は(法人税法上の)寄附金です。

これはどんなグループ会社間取引でも同じですが、
所得調整や(銀行対策のため)赤字回避を目的として、
期中に受発注金額や率・単価などを変えている場合、
「経済合理性がない取引」、もしくは取引金額が
「時価(第三者に依頼した場合の金額)から乖離している」
として、寄附金認定されるリスクが高くなります。

このように、グループ会社間取引がある場合は、
年間ごとに取引条件等を変更することに合理性はあっても
(実態に即した改定をする)、実質的な所得調整となれば
発注側=寄付金、受注側=受贈益として課税されてしまい、
もはや所得分散による節税メリットは成り立たなくなります。

さて、同一事業において「顧客を分ける=グループ内取引ナシ」
のケースを考えてみましょう。

例えば、仕入や設備投資の無いコンサル事業などの場合、
クライアント50社を25社ずつに分け、新規契約ごとに
どちらかの兄弟会社に割り振る手法があり得ます。

このような所得分散のケースにおいて、税務署が
否認できる根拠は「行為計算否認」になります。

法人税法第132条(同族会社等の行為又は計算の否認)
税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は
決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、
これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる
結果となると認められるものがあるときは、その行為又は
計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、
その法人に係る法人税の課税標準若しくは
欠損金額又は法人税の額を計算することができる。

行為計算否認が適用された場合の引き直し計算を、
具体的な例で示すと下記のようになります。

売上3,000万円 所得800万円 法人税額120万円
の兄弟会社が2社あり、行為計算否認が適用
(2社合計の所得1,600万円 法人税額240万円)

売上6,000万円 所得1,600万円 法人税額300万円
(課税上、1社に集約して所得・税額計算が行われる)

240万円と300万円の差額である60万円に課税

これが行為計算否認の引き直し計算で、2社に所得分散
されることによって、全体の租税負担を不当に減少させる結果
となった場合に適用される可能性があります。

一方で、上記のような兄弟会社で所得分散を行っていても、
実務上・現実的に行為計算否認が適用されない理由としては、
行為計算否認の適用要件として「法人税の負担を不当に
減少させる結果となる」と規定した【不当】の解釈には、
行為の手法(経済合理性の無さ)のみならず、
金額の不当性(大小)があることから、上記のような
数十万円程度の税負担減少は適用しない(できない)
という国税側の適用基準があるからです(逆に言えば、多額な
税負担の減少になっていれば適用可能性が上がる)。

税負担減少額が少額であれば、税務署も
課税しない・できないというのが実態ではあるものの、
絶対に否認できない・否認論拠が無いわけではありません。
このリスクについては認識しておくべきでしょう。

また、個人事業主が同族法人に対して外注費を流し、
それが否認対象となる事案は上記と違う観点になりますので、
下記の2記事(過去メルマガ)を併せて参照してください。

「個人事業主から同族法人への外注費が否認された事案」
https://kachiel.jp/?p=27438

「個人から同族法人への外注費が否認される論拠」
https://kachiel.jp/?p=27986

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

著者情報

久保憂希也

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