2024.10.25

役員退職金を平均功績倍率法で算定する根拠とその注意点

※2023年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

株式会社KACHIELの久保憂希也です。

先週水曜の本メルマガでは、役員退職金の法的根拠、
その支給要件、計上時期などを解説しましたが、今回は
税務上の役員退職金適正額の算定方法を取り上げます。

役員退職金が不相当に高額=損金不算入かどうかは
下記の法令に基づき判断されることになります
(カッコ書きを除いて表記します)。

法人税施行令第70条第二号
内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して
支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の
業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と
同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの
役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、
その退職した役員に対する退職給与として相当であると
認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額

以上から、役員退職金を決定するにあたり3つの要因があり、

●業務従事期間
●退職の事情
●類似法人における役員退職金の支給額

となり、この考え方は下記通達においても規定されています。

法人税基本通達9-2-27の3
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm
いわゆる功績倍率法に基づいて支給する退職給与は、
法第34条第5項に規定する業績連動給与に該当しない
のであるから、同条第1項の規定の適用はないことに留意する。
(注)本文の功績倍率法とは、役員の退職の直前に支給した
給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間
及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する
金額が算定される方法をいう。

このことから、一般的に役員退職金の算定にあたっては
【功績倍率法】が用いられることになります。

役員退職金(税務上の損金算入上限額)
=最終月額報酬×勤務年数×功績倍率

なお、ここにいう「功績倍率」とは、「同種の事業を営む
法人でその事業規模が類似する」法人を抽出し、
算定される必要があるわけですが、実質的にそのような
算定は一般法人において不可能であることから、

代表取締役 3.0
専務取締役 2.5
常務取締役 2.2
取締役   1.8
監査役   1.5

などの【平均功績倍率】が設定されることになります。

ここで留意すべき点として、上記はあくまでも
役員退職金における「税務上の損金算入上限額」を
算定するための考え方・根拠であって、法律上これを
超えた額の役員退職金を支給できないわけではありません。

例えば、創業社長が若くして亡くなった場合に、多額の
死亡保険金が入金されるなど、上記算定額を超えて
役員退職金を支給したいケースでは、前回解説したとおり、
株主総会で支給額を決議したうえで、税務上の損金算入
上限額を超える額を自己否認して申告することがあり得ます。

このように自己否認(別表加算)した場合であっても、
受取側は全額が役員退職金となることに変わりありません。

さて、もう1つ留意すべき論点として、代表取締役の
功績倍率の設定を3.0超とするリスクです。

例えば、功績倍率の設定を3.0として平均功績倍率法で
算定した場合の役員退職金が1億円ではあるが、
法人における内部留保額等の関係で1.2億円支給したい
(全額損金算入)場合において、逆算すると
功績倍率が3.6になるわけですが、これを税務調査で
否認=更正される場合、もしくは更正後に不服申立てや
裁判に持ち込んだ場合、功績倍率が3.0未満になる
事案の方が圧倒的に多いでしょう。

なぜなら、国税が同業・類似他社を抽出した場合に、
功績倍率3.0という最大で役員退職金を支給している法人が
かなり少ないからです。功績倍率3.0で支給するということは
内部留保額に余裕がある業績が良い法人だけであって、
平均すると1倍台になることが多くの判決で示されています。

功績倍率3.0に設定しておけば否認リスクが低かった以上に、
実際に否認されてしまうと、3.0未満しか認められず、
圧倒的に損をするという結果を招きかねません。

ですから、役員退職金の算定において平均功績倍率法を
用いる場合、「代表取締役3.0」以下にする
=高く設定するリスクを取らないことが大事になります。

(平均)功績倍率法を用いる場合に、最も不合理になる
ケースとして、最終月額報酬が著しく低額、またはゼロ
ということが考えられ、実務上もこのケースが散見されます。

来週水曜の本メルマガでは、最終月額報酬が著しく低額、
またはゼロの場合に、役員退職金の算定をどうすべきか
について解説します。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

著者情報

久保憂希也

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