2025.05.14

相続時精算課税のリスク確認(6)

※2024年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

税理士法人レディングの木下勇人です。

今回のテーマは、
「相続時精算課税のリスク確認(6)」です。

今回も前回に引き続き
「相続時精算課税のリスク確認」を解説していきます。

「相続時精算課税のリスク」項目を
列挙すると以下のとおりとなります。
1.選択後は暦年課税に戻れない
2.基礎控除を超える贈与は「期限内」申告が必要
3.小規模宅地等の特例は適用不可
4.相続税が発生することあり
5.物納不可
6.特定贈与者よりも受贈者が先に死亡する

前回は、
5.物納不可
を確認しました。

今回は、
6.特定贈与者よりも受贈者が先に死亡する
を確認したいと思います。

相続時精算課税を選択して親が子へ贈与し、
その後、特定贈与者(父)が死亡した場合、
相続財産に選択後の贈与財産を全て加算し
相続税計算に加味し、支払った贈与税があれば
それを控除し、精算することを想定しているのが
相続時精算課税です。

もちろん、最後の精算時に納付するだけでなく
還付するということもあり得ます。

どちらにしても、最後の精算時に
納付であれば、相続税納税という義務を負い
還付であれば、相続税還付という権利を
得ることになります。

つまり、
この権利義務は受贈者に帰属することになります。

それでは・・・
精算課税適用者(受贈者である子)が、
特定贈与者である父よりも先に相続が発生
してしまった場合は、この権利義務は
どうなるのでしょうか。

結論は、精算課税適用者(受贈者である子)が
亡くなった場合、精算課税適用者の相続人
(包括受遺者を含む)が承継し、精算すること
になります(相法21の17(1))。

相続人は、被相続人の財産に属する
一切の権利義務を承継することが民法で
規定されています(民法896)。

(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、
被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

このことから考えても、
相続時精算課税選択者である子が
権利義務を承継することは
想定できるかと思います。


(相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継等)
第二十一条の十七 特定贈与者の死亡以前に
当該特定贈与者に係る相続時精算課税適用者が死亡した場合には、
当該相続時精算課税適用者の相続人
(包括受遺者を含む。以下この条及び次条において同じ。)は、
当該相続時精算課税適用者が有していたこの節の規定の適用を
受けていたことに伴う納税に係る権利又は義務を承継する。
ただし、当該相続人のうちに当該特定贈与者がある場合には、
当該特定贈与者は、当該納税に係る権利又は義務については、
これを承継しない。

上記のただし書きを確認してみてください。
相続人の中に特定贈与者がいる場合には、
特定贈与者は権利義務を承継しないとあります。

イメージとしては、
家族構成が(父、母、長男)の3人家族で
長男には配偶者有だが子がいないという
ケースです。

長男は父からの贈与につき
相続時精算課税を選択したが、
父よりも早く長男に
相続が発生してしまった。

この場合、長男の相続は
長男の配偶者と父母の3人です。

この3人が長男に帰属する権利義務を
承継することになりますので、
本来であれば、贈与者である父も
相続時精算課税に係る権利義務を
承継すべきことになります。

しかしながら、特定贈与者である父は
自ら納税義務を履行することができないため
相続時精算課税に係る権利義務を承継しない
ことになります。

また、
家族構成が(父、母、長男)の3人家族で
母は既に他界し、次に長男に相続が発生して
しまった場合、長男の相続人は父のみとなります。

この場合、相続時精算課税に係る権利義務を
承継する相続人がいないことは通達でも
明確にされています(相基通21の17-3)。

このように、相続時精算課税を選択すると
子が親よりも先に相続が発生してしまった場合
相続時精算課税に係る権利義務を承継してしまう
ことを知らずに選択してしまっているケースが
散見されます。

相続の発生順位は選ぶことはできませんので
選択前にしっかりと説明責任を果たしておく
ことをおススメいたします。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

著者情報

木下勇人

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